肥満に効くサプリは存在しない
今回のお話は肥満治療としての薬物療法と手術療法です。
肥満治療の基本はやはり食事と運動である事には変わりないのですが、やはりそうは簡単にはいきません。特に重度の肥満症となれば一筋縄ではいかないのが現実です。そういった方にはお薬や手術がおこなわれることがあります。ただ、日本では海外と比べて肥満の方が少ないのもあってかこの分野の治療が進んでいません。
それに伴って並行輸入された海外で使われる薬剤やそうでない薬剤が混在して自費診療としてまたインターネットで購入できている状況を目につきます。また、サプリメントや医薬部外品などでも肥満に効果があるような商品が販売されており、食事運動を頑張らなくてももこれを飲んでおけば痩せられるのではないかと勘違いするような商品もあるのが現状です。
今回はこれらのお薬や手術が本当に効果があるのかについて科学的根拠に基づいて説明していきます。
目次
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どういった人が薬物療法や手術療法を受けるべきか
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知っておいて欲しい、効果の期待できない薬物療法と手術療法
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肥満治療に効果のある薬物療法と手術療法
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どういった人が薬物療法や手術療法を受けるべきか
肥満症に対するお薬を始める前にまず、十分な食事制限や運動ができているかと考える事が基本にあります。と言うのもあらゆる肥満に対する薬の研究は食事運動療法の上に行われていますので、効果について期待できない可能性が高いです。後述する食欲を落とすお薬については食事を減らすきっかけになる可能性はありますが、いくら食べても痩せられるお薬は存在しませんのでその点は誤解しないようにしましょう。
さて、食事運動療法を実施して体重が減らない場合や、肥満の原因の合併症(糖尿病や高血圧症、変形性膝関節症)などが重症であって治療を急ぐ場合などにお薬が選択されます(参考文献 1)。
手術については保険で治療を受けれる人は半年以上食事・運動・薬物など内科での治療を受けても効果が見られないBMI(肥満指数:体重 / 身長の二乗) 32 kg/m2以上の糖尿病患者さんで高血圧症・脂質異常症・睡眠時無呼吸症候群のうち二つがある方か、BMI 35kg/m2以上で糖尿病、高血圧症、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群のうちの一つ以上がある方が対象となっております(参考文献 2)。
お薬はともかく、手術にはリスクが伴いますので結構ハードルが高いのです。
知っておいて欲しい、効果の期待できないお薬と手術
さて、ここからが本番です。まずは巷にあふれている効果の期待できないお薬や手術について解説していきたいと思います。
まずは、サプリメント全般です。サプリメントとは「ビタミンやミネラルなど健康の維持増進に役立つ特定の成分を濃縮し錠剤やカプセル状にしたもの」の事を示しますが、現時点で肥満治療に有効なサプリメントは存在しません(参考文献 3)。わずかに有効である報告は存在しますが、安全性のデータなどが欠けて入たり、そもそも十分な根拠がなかったりしますので、現時点でお勧めできるサプリメントは存在しません。プロテインなど減量によって不足する栄養素を補給する目的でのみ利用できると考えられます。
漢方薬の防風通聖散もよく見かけます。医学論文を検索するpubmedで"Bofu-tsusho-san" "RCT(ランダム化比較試験)"で検索すると4つの論文がでてきますが、そのうち体重減少を目的とした研究は一つだけ(参考文献 4)です。こちらの研究は血糖値が高めの肥満女性(平均BMI:36.5kg/m2)81人を対象として食事療法(1日1200kcal)と運動療法(毎日5,000歩)を行った上に、防風通聖散とプラセボのどちらかを飲んでもらい、半年後の体重と内臓脂肪を調べています。
しかし、この研究では体重についてはどちらがより減るのか比べておりません。また、内臓脂肪については防風通聖散を飲んでいた人がより減ったと記載されていますが、この研究は残念ながら、対象数の設定などに問題点があり、正直根拠としては弱いです。結論として「防風通聖散が体重を減らす」とは言い切れないというのが現状です。また、この漢方薬は偽性アルドステロンや間質性肺炎などの副作用も報告されており、注意が必要です(参考文献 5)。
妊娠初期に分泌されるホルモンであるhCGの注射がダイエットに良いという自費クリニックの広告を見ました。しかし、残念ながらこのhCGを肥満治療に有効であるという科学的根拠はないとされていて、広告に書かれているような空腹感の軽減や脂肪代謝の変化、デトックス効果などもありません(参考文献 6)。肥満治療のメリットはないと思ってよいでしょう。
脂肪吸引の広告もしばしば見かけます。脂肪吸引は実は古い手術で初めて行われたのは1921年だと言われています(参考文献 7)。当初はかなり危険な手術であったようですが、最近は合併症の少ない手術と考えられており、単独手術の合併症は0.7%と言われており、出血、浮腫、感染、血種、血栓症などの他、輪郭の変形などがあります(参考文献 7)。
脂肪吸引の大きな問題点としては脂肪を減らしても肥満による代謝の問題を解決しないことです。15人の肥満女性に脂肪吸引を行った前後の血糖値やインスリンの効き具合などを評価した研究では脂肪吸引は腹部脂肪を減らしますがそれでも内臓のインスリンの効き具合や肥満による炎症は変わらなかったと報告されています(参考文献 8)。また、別の研究では脂肪吸引後内臓脂肪が増加したという報告もあり、注意が必要です(参考文献 9)。部分的に痩せられるという点で美容的には良いかもしれませんが肥満による様々な病気のリスクは改善しない事と、結局食生活が変わらなければまた太る可能性もあるので、その点も注意が必要です。
ここからは、肥満治療に効果のある薬物療法と手術療法について次の観点でお話をします。
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参考文献 1
参考文献 2
参考文献 3
参考文献 4
参考文献 5
参考文献 6
参考文献 7
参考文献 8
参考文献 9